真鶴一人旅
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忙しい週が続いた。ゆっくりしよう、と近場で一人旅をすることにした。Google マップを眺めながらうーーんと、場所を考える。箱根、湯河原、熱海……どれもここ最近行ってしまったせいかピンと来ないなあ。行った後の事が予想できてしまう。と、思った時に目に入った”真鶴”という文字。確かに通り過ぎることはあるけれど、駅で降りたことがないかもしれない。行ってみよう、と思いすぐ宿を探し予約した。
せっかくだから、と携帯やPCは持っていくのはやめた。財布とメモ帳、ボールペンとあと、とっておきの日本酒を一本だけ持ち家を出た。バス停に着き、時刻表を見て、早速時間を確認する術がないことに気づいた。まあ、いいか。なんとかなるだろう。
運良くバスはすぐきた。鎌倉駅に着いて、電車に乗り込み大船駅で乗り換えて、熱海方面へさらに進んだ。車内では大船駅構内のBOOK EXPRESSで買った、最近好きな田丸雅智さんの「ショートショート列車」を読んだ。青森の”褒めりんご”から早速面白いぞ……。ショートショートは一つ一つが短いから、疲れたらいつでもやめれるのがいい。暇つぶしにちょうどよい。携帯が無いと、本読む時以外は外を見たり、それから無駄に考え事をすることが多くなることがわかった。
大船からは約1時間で真鶴に到着した。降りて辺りを見回しても、駅前には特に目立ったものがない。まあいい。今回はひたすらにのんびりする旅だ、とか思いつつも、観光案内所には寄って冊子をいくつかもらった、
適当に街を歩き、坂を登ると、気になるお店を見つけた。海沿いの街ならやはり魚だろう、とその名前に惹かれた「鯛納屋」。やや時間が遅かったせいか、店内はほぼ貸切で、窓際に座ると遠くに青い海が見えた。
冷酒を頼み、それから刺身定食を注文。少し高いが、伊勢海老は食べたい。えいやっ、と頼んだ。
定食についてきた塩辛や野菜、酢の物をつまみながら一人飲む。しんとした店内。気がつけば自分の他にお客さんが誰もいなくなっていたから、足をくずして、海を見ながら飲んだ。知らないお酒でも安いお酒でも関係ない。海が見えて、自分以外誰もいなくて、今お腹が減っている、喉も乾いている。そんな時に飲むお酒は、好きだとかいいやつだとか、そういうのは問わない。飲むことに意味があるはずだ、って思う。いや思い込んでそういうことにしてやる。
しばらくすると刺身が来た。この刺身が想像以上に大きな舟盛りで驚いた。
どれもこれも美味しかったけれど、やはり一番は伊勢海老の刺身だ。写真じゃあ伝わりづらいけれど、見れば綺麗なほんのりとあたたかさあるピンク色で、噛めば、弾力があって甘い。アワビもウニも美味くて、高いものは高い理由がある、と感じた。
それから刺身だけでなく、このアジの干物がもう絶品で思わずもう一杯、といってしまいたかったがこの後の考えて我慢をした。
昼飯の後にはせっかくなので街を歩いた。人通りの少ない道をふらふらと歩きながら、よし、海まで行ってみよう、と下る。真鶴駅から海へ向かう道は、急な坂や細い道、階段が多くて、先日行った長崎を思い出した。一か月前に行ったばかりなのに、また長崎に行きたくなっている。すっかり長崎に夢中だ。ここ最近飲みに行く度に長崎の事を話し、考えている気がする。
地面に可愛い魚を見つけた。
海が近づいてきた。
港に到着した。気持ちよさそうに釣りをしている人が2~3組。反対側を見ると古い、今はもう廃業されていると思われる旅館を見つけた。
海沿いを歩いていたら干物やさんを見つけた。色々見ていたら「試食もできますよ」とお兄さんが声をかけてくれたので、”イカの口”を焼かせてもらうことに。イカの口、本当好きで好きで。”からす”とか”トンビ”、とか名前はたくさんある、イカの”口”。
じっくり炙って食べれば、口の中パチンと弾けて、じゅっと美味いイカの出汁があふれる。これがやっぱりうまい。よし買おう。1人前で大きな粒を30粒程購入。高橋水産さんありがとうございました。ということで、宿のチェックインの時間が近づいてきたので、引き返した。帰りは登り坂だ。ああ大変だけれど、楽しい。
携帯が無いので手書きでメモした地図を頼りになんとか到着した「みよし旅館」。「古いけれど部屋から海が見える、料理が美味しい」とか言う口コミを信じて、来た格安宿。着いたら旅館のフロントに誰もいない。
そういえば「仕入れで遅れたらごめんね」と電話で聞いたっけ。暗いフロントのソファーで、近くのセブンイレブンで買った”夏子の酒 完結編”を読んで待った。”みんな……気が付かないの…… この純米は…… 問題があります”というシリアスなシーンで、扉がガラガラと開き、「あらお客さんいるわ!」「あら!」と陽気なお姉さま方が登場。ごめんねえ、仕入って大変なのよ~と、いうゆるい感じいいなあ、とか思いながら本音としては(いまいいところだったのに)。という感じで、案内された客室は見事なオーシャンビュー。
綺麗。確かに部屋は新しくはないがいい。
この部屋から海を見て、海は近くで見るより自分は遠く、高いところから見る方が好きだなあ、と思った。鞄を整理してふと見つけた観光案内所でもらった冊子「小さな町で、仕事をつくる」を読み始めた。真鶴に移住してきた夫婦が作っているようだ。その中で
”上から真鶴みなとを望む。高い建物はほとんどない。「どの家からも海に浮かぶ月が見えるように」とロマンチックな理由がある”
と書かれていた。”本当かな”とか思ってしまった自分はロマンチックじゃないのかもしれないなあとか思いながら、事実だとしたら素敵な話だ。(ちなみに、これを書きながら月は見忘れた、と後悔をしている)
部屋の時計を見れば夕方の16時。
夕食の時間までまだ時間があるということで持ってきた「勝山 献 KEN」を開けて、夏子の酒の続きを読むことにした。この勝山は麻布十番の右京で飲んだLEIが気に入って、好きになった宮城の酒。持ってくるのをLEIにしようかと迷いつつ(ちなみに四合瓶で3,780円!)、LEIは飲んだことがあるから、と今回はKEN。一杯だけ飲むと、口に入れればこれも美味いこと。(ちなみにKENも2,700円と安くはない)
漫画読みながら、好きなお酒を飲み、窓からは海が見える。これは幸せすぎる。漫画読み終えたら(感動して泣いた)1時間、寝た。
夕食。ぼーっとしながら下の階へ。
中瓶のスーパードライを飲みながら魚をメインとした食事を楽しむ。「今日は夕食を食べるお客さんがいなくて」と広々とした和室を独り占めにできた。
新鮮な刺身はもちろんうまくて。
それからこのカニ汁が絶品で絶品で。最近はこういった汁ものが好きで寿司屋に行っても、寿司とともにどんなお椀が来るのだろう、とか常に考えている。
夕飯の後風呂に入る。湯が熱すぎて、水を出して調節した。大浴場という訳ではなく、シャワーの出も悪い。ドライヤーもないから髪をがしゃがしゃと拭いて乾かす。まあ、でもこういうところも一人なら良い。(自分は特にこだわりがない)一人旅の醍醐味は、誰にも気を使わず自分だけで全てがコントロールできるところ。自分が良いと思ったら、全てが正解になる。
部屋に戻り、「ショートショート列車」を読み終え、次にこれまた大船で買った太田和彦さんの「東京エレジー」を読み始めたが、序盤の田端から案外難しく読み進めるのがつらくなる。こりゃ時間があるときにゆっくり読もうと、本を閉じテレビをつけた。ニュースでは稀勢の里の優勝のエピソードが紹介されている。チャンネルを適当に変えていたら、綾野剛がナンパ駅伝なるものをやっている。「綾野剛です」とか、そもそもずるいだろう……とか思いながら、笑えた。
勝山をだらだら飲みながら、引き続きTV。お願いして炙ってもらったイカの口に、一味とマヨネーズをつけて食べるとお酒が止らない。21時からドラマを見た。
CMの度に寒いけれど外に出て、海とその周辺に散らばっているような家を見る。ドラマで”もんじゃ”が出てきたら猛烈に月島に行きたくなったがここは真鶴。我慢しかない。CMで流れてきた「3月のライオン」は仕事上気になる。輝きYELL!という5分番組で先ほどナンパ駅伝に出ていた、尾形貴弘さんが映り、さっきの番組からは想像できないくらいに熱く、言っている言葉に心が動く。伝えたいことは全力で想いを込めて言わなければいけないんだ、と酔いながらメモして気を引き締める。
だらだら飲んでいたら、22時には四合瓶も空になり、布団にもぐって寝ることにした。
6時に起きたら、(起きて何時かわからずTVをつけたら6時だった)まだ日は昇っていないが、もうまさに昇りそう。好きな酒はいくら飲んでも次の日に残らないという自分ルール通りすっきり目が覚めた。窓を開けて外に出てみると寒いが、我慢はできるくらい。
10分程待ったら……日が登ってきた。
ある程度見て、満足したらまた布団に戻って昨晩の「東京エレジー」続きを読むことにした。
読み進めるが、窓の外に見えるこんな風景が、布団に寝転がりながら見れてしまうことに慣れず、そわそわするから本が中々進まない。それも贅沢というもんか。布団で寝ころがりながら海と朝日が見れるなんて。
すっかり日が昇りきった後の風景はこの通り。ごちゃごちゃ、とした家の密集ぐあいがこれまた良いなあ。
8時。朝食。
朝から新鮮な刺身。
どれもこれも美味しかったけれど、一番気に入ったのが”干物”。真鶴に来て干物にはまってしまった。
朝食を終え部屋を整理して、宿を後にすることに。宿のお姉さんが最後まで手を振ってくれた。
特に何もせず、居酒屋にもいかず宿でいる”一人な時間”を楽しむ旅は、考えた通りにリフレッシュができた。それから普段考えきれていなかったことを再度じっくり考える機会にもなった。良い旅だった。
さて明日からの平日が終われば、金曜夜からは山形・酒田。12月に訪れて以来、ずっとずっとまた行きたく夢にも現れた酒田。美味い寿司と寒鱈まつり。それからお世話になった人に会いたい、ということで明日からの月~金はまた頑張るぞ。